属人化の解消方法|退職前にやること
属人化の解消方法を、担当者の退職を控えた中小企業向けにまとめました。何が止まるかを洗い出す手順、優先順位の決め方、手順書と仕組み化の使い分け、費用の考え方まで解説します。
ベテランの担当者から退職の相談を受けた。頭に浮かぶのは、あの人しか触っていない業務です。手順書はなく、聞ける時間も限られている。残された数か月で何から手を付けるべきか、判断がつかない状態かもしれません。
この記事では、属人化の解消方法を、期限が決まっている状況を前提に扱います。読み終えると、次の3つが分かります。
- 属人化している業務を洗い出す具体的な手順
- 限られた時間で、どの業務から手を付けるかの決め方
- 手順書で渡すか、仕組みに移すかの判断基準と費用の考え方
属人化とは「その人が休むと止まる」状態のこと
属人化とは、ある業務が特定の一人に依存していて、他の人には進められない状態を指します。手順が本人の頭の中だけにあり、外から見えない状態です。
注意したいのは、属人化が個人の問題ではないという点です。多くの場合、次のような経緯で自然に生まれます。
- 兼務が多い:一人が複数の役割を持ち、自分のやり方で最適化していく
- 例外が積み重なる:特定の取引先だけ違う対応を続け、それが口頭で受け継がれる
- 改善した人が抱える:効率化した本人が、そのまま担当を続ける
- 記録する時間がない:日々の処理に追われ、手順を書き残す余裕がない
つまり、まじめに仕事をしてきた結果として属人化は起きます。担当者を責めても解決しません。仕組みの側を変える必要があります。
退職が決まっている場合、これは期限のある課題になります。本人がいるうちにしか回収できない情報があるからです。取引先ごとの暗黙のルール、システムの設定理由、トラブル時の対処。こうした情報は、退職後には誰にも聞けません。
属人化の解消方法は「洗い出し」から始める
いきなり手順書を書き始めるのは失敗のもとです。量が多すぎて途中で止まります。まず全体像をつかんでください。
1週間、業務を書き出してもらう
対象の担当者に、1週間分の作業を記録してもらいます。項目は4つだけで足ります。
- 何をしたか:作業の名前を短く
- どのくらいかかったか:分単位のおおよそで構いません
- どのくらいの頻度か:毎日/毎週/毎月/不定期
- 自分以外にできる人がいるか:いる/いない
凝った様式は不要です。紙でも表計算ソフトでも構いません。大事なのは、頭の中にある作業を外に出すことです。
「いない」が付いた行だけを見る
書き出しが終わったら、4番目が「いない」の行を抜き出します。これが属人化している業務の一覧です。感覚で選ぶより、はるかに漏れが少なくなります。
多くの場合、ここに20〜40件ほど並びます。全部に手を付ける時間はありません。だから次に、順番を決めます。
「止まると困る度合い」と「頻度」で並べる
優先順位は2つの軸で決めます。難しく考える必要はありません。
- 止まると困るか:止まると入金が遅れる、出荷できない、法令上の期限を過ぎる。こうした業務は最優先です
- 頻度が高いか:毎日や毎週の業務は、引き継ぎ先が早く慣れます。年1回の業務は後回しでも回復できます
両方が高いものから順に並べ、上から5件だけを最初の対象にします。残りは、この5件が片付いてから見直します。時間がない状況で全部を追うと、結局どれも中途半端に終わります。
手順書で渡すか、仕組みに移すかを分ける
洗い出した業務は、2つに分けて扱います。ここを混ぜると作業量が膨らみます。
判断が必要な業務は、手順書で人に渡します。 取引先との交渉、例外への対応、品質の最終確認。人の判断が入る業務は、自動化しても意味がありません。ここは口頭で聞き、書き残すことに時間を使います。
判断が要らない繰り返し作業は、仕組みに移します。 転記、集計、定型メールの送信、ファイルの振り分け。手順が決まっていて毎回同じことをしている作業です。ここを人に引き継ぐと、次の担当者にそのまま負担が移るだけです。
分ける基準は1つで足ります。「この作業で、その日ごとに違う判断をしているか」。していないなら、仕組みに移す候補です。
手順書に何を書くか
手順書は完璧を目指さないでください。次の4項目だけ埋めれば、引き継ぎは成立します。
- 目的:何のためにやるか。これがないと、次の担当者が形だけ真似します
- 手順:画面の名前とクリックする場所まで。スクリーンショットを貼れば十分です
- 例外:「この取引先だけは別扱い」という話。ここが最も価値があります
- 困ったときの連絡先:社内の誰か、または業者の窓口
作成は担当者本人ではなく、引き継ぐ側が書くのが確実です。本人が書くと、自分にとって当たり前の部分が抜け落ちます。引き継ぐ側が実際にやりながら書けば、抜けはその場で見つかります。
仕組みに移す場合の費用の考え方
仕組み化の投資は、感覚ではなく時間と金額で判断します。
洗い出しの表に、月あたりの合計時間が出ているはずです。その時間に担当者の時給を掛けると、その業務に毎月かかっている金額が出ます。導入費用をその金額で割ったものが、回収にかかる月数です。12か月以内に収まるなら、進める価値があります。
対象を1つの業務に絞れば、費用は数万円からの幅に収まることが多い領域です。全社の基幹システムを入れ替える話とは規模が違います。まずは自社の作業時間を数字にしてから、見積もりを取ってください。
考え方は業務が変わっても同じです。請求書処理の自動化でも、数えて、絞って、多い順に手を付ける順序は変わりません。表計算ソフトで管理している業務なら、在庫管理のエクセルが限界かどうかの見極め方も判断の材料になります。
よくある失敗と対策
失敗1:退職日の直前に始める 最終出社の1〜2週間前に着手すると、聞き取りだけで終わります。実際に引き継ぐ側がやってみて、詰まった箇所を質問する時間が必要です。退職の意向を聞いた時点で洗い出しを始めてください。
失敗2:全部を手順書にしようとする 20件も30件も書こうとすると、量に押されて質が落ちます。優先度の上位5件を厚く書くほうが、実務は回ります。残りは業務名と概要だけのメモで構いません。
失敗3:引き継ぎ先を決めずに進める 受け取る人が決まっていないと、手順書は誰も読まない資料になります。先に担当を決め、その人が書き、その人が試す。この形にすると、内容が実務に合います。
失敗4:繰り返し作業をそのまま人に渡す 転記や集計をそのまま引き継ぐと、属人化の相手が変わるだけです。数年後に同じ問題が起きます。判断の要らない作業は、この機会に仕組みへ移してください。
失敗5:動かした後の担当を決めていない 仕組みを作っても、設定を変える人がいなければ数か月で使われなくなります。変更手順、エラー時の対処、問い合わせ先。この3つを残し、担当を1人決めておきます。
まとめ
属人化の解消方法は、順番さえ守れば難しくありません。1週間分の作業を書き出し、「自分以外にできる人がいない」行を抜き出す。止まると困る度合いと頻度で並べ、上位5件から手を付ける。判断が要る業務は手順書で人へ、要らない業務は仕組みへ。この4段階です。
小売業のお客様の仕入れ業務で、月60時間の作業が月3時間になった例があります(約95%の削減)。
退職の相談を受けたら、その週のうちに洗い出しを始めてください。本人がいるうちにしか聞けないことが、必ずあります。
自社ではどこから手を付けるべきか、一緒に整理します。
相談は無料です。今の業務の流れを伺ったうえで、自動化する順番と、 自動化しないほうがよい部分をお伝えします。